下部に生息する天然ホタルの紹介

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ホタルを護る活動『保護活動の経過』

■ホタル復活

〜住民一丸となったホタル復活への動き〜

昭和30年代、稼動整備・自然災害・護岸工事等による河床の変化、農作業での多量な除草剤やその他農薬の使用、家庭からは合成洗剤や多量の廃油等の雑排水の流出による河川の水質汚濁により、昭和40年代には、居住区域の自然環境の変化は目に見えるほどになった。

どこでも見ることができた小魚の魚影はみられなくなり、ホタルは姿を消し、夏の夕べに涼を誘うかじか蛙の鳴き声も全く聞くことができなくなってしまった。

この変化に一早く危機感を持ったのは女性層だった。女性団体が主体となって合成洗剤の自粛・粉石鹸の使用を呼びかけ、家庭からの雑排水を少しでも浄化しようと運動を起こしていったのだ。その運動により昭和50年代には、一色地区内一色川にホタルが再び帰ってきた。一色区ではこのホタルを再び消すことなく、さらに発生を促すよう区を挙げて保護活動を展開した。
昭和60年代には、発生するホタルの数は更に増え群舞する状態にまで至り、保護活動は更に発展し組織的なものとなり「一色ホタルの里保存会」が結成された。
町でも全面的な支援活動を始め「一色ホタルまつり」を開催し、町内主要な河川の「水質検査」を実施して町民の意識の啓蒙を図り、居住環境の浄化・自然保護を呼びかけてきた。昭和62年には「ホタル保護条例」「同施行規則」を制定し、ホタル保護を行政施策として位置付けた。

女性団体の一部地区会の活動から町全体の活動へ広がりをみせ、消費生活研究会では家庭の台所廃油を回収し、手作り石鹸をつくり、機会があるごとに一般に配布して家庭から出る排水の浄化を呼びかけてきた。 町も、原材料の支給、粉石鹸製造機の購入等、積極的な支援を行ってきた。また女性会議による模擬議会の決議、提言などを受けて、生ごみコンポストの購入補助制度を実施し、各家庭でコンポストを購入する場合その半額を補助してきた。住民の意識も高まり、水田耕作も毒性の低い除草剤に切り替える、散布回数を減らすなど、自発的に残留農薬を減らす努力を心がけるようになってきた。

昭和63年頃には一色地区ではホタルの乱舞が見られるようになり、久那土地区内の久保川・樋田川流域にも大量発生のポイントが見られるようになった。

■ホタル保存会の発足

〜「ほたるサミット」が繋ぐふるさと と いきものの里〜

平成2年、環境庁より「小動物生息環境保全地域」の指定を受け、ふるさといきものの里づくりとして行政、住民が一体となって「ホタルの里しもべ」づくり運動が展開されるようになった。

運動の基本は、ホタルを人里の自然の可逆的変化の限界を示す指標動物としてとらえ、ホタルが自然増殖し、どこでもホタルが見られるような自然を保つことが自分たちの生活を護ることであり、心和む自然を保ち、心豊かな生活を営める居住環境をつくることが、「ふるさとづくり」である。との認識をもって、全町運動として展開しようとした。町では山梨県農村活性化施策の一環である「農村景観整備事業」を積極的に取り入れ、観光振興にも役立たせるよう、一色地区に「ホタルふれあい河川」を設置し一色川のほとりの道路整備も行った。
また、町内60の集落公民館に「集落ホタル保存会」の結成を呼びかけ、久那土・下部・古関の旧村単位の地区ごとに結成された集落保存会を集めて「○○地区ホタル保存会」を結成し、地区保存会の代表者をもって「中央ホタル保存会」を組織して全町を網羅した保存会組織をつくり、毎年補助金を交付してその育成と活動を支援してきた。
(その後、実態に合わせて平成8年に住民組織と改編した。)

さらに、当時の町長土橋精一氏の提唱により、下部と同様に環境庁より指定を受けた「ふるさとといきものの里」の全国7町に呼びかけ、ホタルを軸に町づくりを進めている町の首長による「ほたるサミット」を組織し、第1回サミット「ほたるサミットしもべ89」を平成元年に本町で開催した。以後、

第2回 群馬県月夜野町 第3回 宮城県東和町
第4回 長野県辰野町 第5回 岐阜県本巣町
第6回 愛知県阿久比町 第7回 滋賀県山東町
第8回 和歌山県貴志川町  ・・・

と、毎年参加町持ちまわりで開催され、各町の研究成果及び活動報告の発表を行い、情報交換と共同アピール宣言を選択してきた。
平成9年からはさらに、茨城県潮来町(現在は潮来市)・岡山県北房町・岐阜県蛭川村・山口県豊田町が加わり参加12町村で再出発となった。

■ホタル保存会の活動

〜ホタルをもっと深く知ること〜

「夏の夜のひと時をファンタジックな情緒的風景を醸し出す不思議な光りを出す昆虫」。

当時は誰もがこのような認識しかなく、観念的にホタルを呼び戻すことが自然環境を浄化し、保全することに繋がると考えて保護活動に努めてきたが、その科学的因果関係について認識は薄く、ホタルの生態については全く無知であり幼虫の形態すら知らない状態であった。

まずホタルとはどんな昆虫なのか、水辺環境と直接係わるその代表として、ゲンジボタルを取り上げてホタルそのものの学習から始めることとし、横須賀市自然博物館の大場信義先生のご指導を受け一色の現地で、また講義でホタルの学習にとりくんだ。
同時にゲンジボタルを養殖してその生態をつぶさに観察し、理解を深めることとした。

ホタルの養殖水槽を自作した上陸用水槽及び採卵用水槽を、久那土地区公民館に設置し、その管理・観察研究を保存回事務局員が受け持ち、その結果や研究成果を保存会の学習会及び総会で発表・報告して学習を深めてきた。
養殖の結果、得られた終齢幼虫は久那土地区内の樋田川・三沢川の

1.ホタル生息要件が満たされている。(カワニナがいる)
2.上陸場所がある。

などの要件を備えながらも、まだホタルの発生が見られないポイントに放虫し、自然発生を助長することとした。放虫後、それが自然発生につながるかを継続観察することとし、同一場所には再度の放虫は行わないこととした。結果としては、放虫年度には幼虫の個体数の20〜30%の成虫の飛翔がカウントできた程度であったが、早くて2年後、遅くても3年後には自然増殖して大量発生につながっている。

ホタル保存会会長赤井正志氏(故人)は、個人的に自宅に水槽を設置しホタルの研究養殖を行い、 不断の観察と綿密な記録をもとに保存会の学集会に貴重な資料提供をされている。中でもホタルの餌となるカワニナの観察研究は特筆すべきものである。養殖した幼虫は、氏の居住区である切房木集落の切房木農村公園ホタル水路に放虫したり、集落内個人宅の池に放虫したりして自然発生を促進している。平成7年度からは、保存会会員による全町河川及び水路におけるカワニナの生息調査を行ない、6月のホタル発生時期には各地区におけるホタルの発生状況調査も実施している。
これら調査の結果をまとめて、平成8年度に下部ホタルマップを作成した。

■住民運動と行政支援

〜さらに積極的に、そして多くの人にホタルを〜

女性団体による環境浄化活動はさらに発展し、行政の環境課も積極的にその運動を支援した。 EM菌利用有機農法のことを知るや、いち早くEM菌研究者であり、かつその利用提唱者である沖縄大学比嘉教授を招いて学習会を開催し、その運動の展開を図った。
EMボカシを使った生ゴミ処理と堆肥づくりは非常に関心を呼び、特に女性たちは自主的な全町組織「EM研究会」を組織してEMボカシを作り、家庭での生ゴミ処理と、できた堆肥を使っての有機農法の野菜づくりを推進した。

行政もこの運動を全面的に支援し、ボカシづくりの原材料支給や材料の混合用のミキサーの購入、自主学習会の講師派遣や謝金の補助、各家庭でEMコンポストを購入する際の購入費補助等を続けている。さらに中央公民館に隣接して約30uの「EMボカシ肥と廃油石鹸づくりの製造施設」を設置した。

「一色地区のホタルまつり」はホタル発生の増加とともに盛んとなり、町の年中観光行事として毎年6月の第2土曜日に位置づけた。今では近隣はもとより、遠方からも大勢の観光客が訪れ大きなイベントとなっている。教育委員会でも、町の伝統民芸品である麦わら細工のホタル籠づくりの体験コーナーを設け、老人クラブの有志に指導を依頼した民芸品づくり体験は非常に好評で、準備した材料はまたたく間になくなってしまう盛況である。

環境のために